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読書感想文

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02 /07 2021
 

滝 一平「少年とバイオリン」を読む
 戦後数年経ってまだ日本中が貧しかったころに起きた感動物語。いや、物語ではなく実話だけど、著者は微妙に脚色して「物語」にした。さらに、原稿として紙に書かず、朗読録音テープとして残したために広まることはなく、そのまま忘れさられてしまった。

 主人公は二人、博多駅構内で靴磨きで日銭を稼ぐ貧しい少年と世界的に有名なバイオリニスト、ユーディ・メニューイン。少年はある日、楽器店のウインドウにメニューインのコンサート開催のポスターを目にする。絶対行きたいが、そんなお金は無い。それで仕事の時間を長くして必死に貯金をはじめる。チケット発売日までになんとか500円を貯めて購入できた。食うや食わずの靴みがき少年がバイオリンコンサートに行く、当時の世情からみれば、それだけでも事件に近い。

 演奏会は素晴らしかった。少年は家に戻って母親に感激ぶりをしゃべりまくった。母親は「よかったねえ」と相づちを打つしかない。そして夜が更けたころ、見知らぬ男性が訪ねてきた。少年に「明日の朝、博多駅のホームに来て下さい」と。用件を言わずに帰ってしまった。
 明くる朝、博多駅のホームへ行くと昨夜の男(実は通訳)が見つかり、そばに、あのメニューイン本人がいた。彼は演奏会後、少年のことを聞いてお礼と励ましの言葉を伝えるために少年に来てもらったのだった。のみならず、離日前にバイオリンを購入して少年にプレゼントした。

 とても分かりやすい実話にして感動物語です。少年とメニューインはその後、再会したことも分かっている。しかし、どういうわけか、ここで情報はプツンと途絶えてしまった。メニューインはずっと活動を続けたが、少年の消息はいくら調べてもわからない。著者、滝 一平はこの実話に少年と同じくらい感動し、なんとか世間に広めたいと思ったが、当人は信州の山村暮らしという環境もあって自分で著作者になれず、テープに吹き込むという表現で残した。近在の人はこの朗読作品を聴いてみんな涙を流したという。

 ようやく、この感動物語は遺す価値があるという篤志家があらわれ、本書の発行になった。ここまでに60年の歳月を要した。売れないのを承知で企画、編集された皆さんの情熱と努力に敬意を表します。何十年か前、大人気イラストレーターだった宇野亜喜良氏の挿絵も素晴らしい。

巻末にメニューインの素敵な言葉が載っている。

           昼間、町を掃除する人々が、
   夜には四重奏を演奏する世界にしたい
   

(2011年 ヤマハ ミュージックメディア 発行)

 
宇野亜喜良の挿絵
バイオリン 

バイオリン



バイオリン


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 dameo

■10年続けた<快道ウオーキング>を改題しました。
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