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犬町・猫町情報



小学生時代の思い出    作:DH
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(63)腹立たしい思い出

 思い出と言っても必ずしも懐かしいもの、楽しいものばかりとは限らない。これはその腹立たしいものの一つ。何年生の時の事だったか、何とかの宮が来られるというので、その歓迎のためにみんな日の丸の小旗を持って道路の片側に並んでお迎えした。そこそこ待ち草臥れた頃、やっと宮様が見えたというので一同最敬礼の号令がかかった。頭を下げている我々の前を車が通ったような気配が感じられるまでにも可なりの時間があった。最敬礼が解けたのはそれから大分経ってからの事である。


結局、我々は長い時間を潰して頭を下げただけの事で宮様の来られる所も、また通り過ぎられた後も車の影も形も見ずじまいだった。いくら皇族だって、また、幾らこちらが子供だって、これは余りにも人を馬鹿にしている。あれから約80年も経ったいまだに覚えている位だから、あの時はよっぽど腹がたったのだろう。

 小学校時代の話はまだまだ続くが、この辺で一寸一服して目先を変え、当時の生活に話を変えてみたい。


(64) 井戸

 一日の生活は起床、洗顔から始まる。いまなら水道の栓を捻ってジャーだが昔はそうはいかない。まず井戸から水を汲み、一旦それをバケツに溜め、そこから柄杓で水を洗顔用の金盥に移す。これだけの事をしないと顔も洗えない。と、字で書くと大変煩わしいように思えるが、馴れてしまえばさしたる事でもない。


さて、井戸。勿論、釣瓶で水を汲みあげるのだが、その方法も時代と共にどんどん進歩する。最初は多分縄の先に釣瓶を縛り付けてドボンと放り込んだのだろう。次いでは竿の先に釣瓶を縛り付けたもの。千代女の「朝顔に釣瓶とられて貰い水」はこれである。その次は「撥釣瓶(はねつるべ)」。柱の上に横木を渡し、一方の端に重しを もう一方の端に釣瓶を付けたもので これだと余り力が要らずかなり楽になる。


我が家のそれは両端に釣瓶を付けたロープを滑車に掛けたもので、エレベーターのように一方が水に浸かっている時は 他方が上に上がっている式のもので、これも余り力が要らなかった。それに我が家の井戸は近辺では一番深い方で水の涸れた事がなかった。浅い井戸だと雨が降ると水が浸み込んで濁るが、深いからそれもなかった。更に地下水の温度は年中一定しているから夏は冷たく冬は暖かい。水道のように結氷する心配もないし、夏は一種の冷蔵庫となり よく西瓜を冷やしたものだ。この時は容器に入れて吊るさないと直接 水に漬けると味が薄くなる。


井戸にもメンテが必要で、年に一度「井戸替え」と言って 溜まっている水を掻き出し 井戸の底を掃除して新しい綺麗な水が流れるようにしていたが、水道の普及と共に「掻き出す」人足が絶滅職種となりメンテが出来なくなった為、今はモーターで洗濯用と表の植木鉢と撒き水にだけ使っている。


井戸と水道についてこんな話がある。都会の子供が田舎の従兄妹の家に遊びに行った。田舎の子が井戸から水を汲むのを見て、都会の子が街では栓を捻ればいくらでも水が出てくると一寸田舎を馬鹿にする。田舎の子は悔しがるが、その中、水道にはお金がかかると聞いて、なんだ ただじゃないんだと田舎の方がいいように思う。これは大正末期に発行された児童専門誌「赤い鳥」に出ていた話だ。


以上とは違い「釣瓶」のない「手押しポンプ」型の井戸もある。詳しい構造は知らないが、読んで字の如く、把手をギッコンギッコンと上下させると反対側の蛇口から水がジャージャー出てくる式の至って簡便なものだ。ご近所には今もこれを専ら撒水用に使っているお宅がある。


更にその上を行く「掘り抜き井戸」という物もある。言ってみれば人口の泉のようなんもので地下の水脈とパイプで直結して、年中、水が出っ放しという何だか勿体ないような代物だが、地下水はどちらにしろ、何処かへ流れて行くのだから途中で多少汲み上げようが、どうしようがどおって事も無いのだろう。この辺の水には微量ながら鉄分が含まれていると見え、井戸から流れ出る水路は永年のうちに鉄錆色になってしまう。


ずっと昔の話になると、都の随身院の外郭に「小野小町の井戸」と称されている、いかにもインチキ臭い井戸がある。かなり広い長方形の地面を階段状に掘ったもので、その一番底の部分に溜まった水を汲んで壁にくっついた階段のような所を運び上げる式のものだ。


いずれにせよ、何処を掘っても水が湧くという事は、皮膚の何処を突いても血が出るのと同じで、地下一面に水脈があるという事になる。血液は体内を循環するが水は低きにしか流れない。しかし、必ず循環する筈となると、どんな地下水脈もいずれは海水の中に流れ入らねばならないという結論になる。

釣瓶式の井戸
道明 井戸


手押しポンプ式の井戸
道明 井戸



電動ポンプ式の井戸
道明 井戸 






 
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