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読書と音楽の愉しみ



●高樹のぶ子著「ショパン 奇蹟の一瞬」を読む

 小説家がショパンについての思い入れを書けば、それは伝記ではなく、フィクション味濃厚になること承知で読む本。テーマごとに関わりのあるピアノ曲を付録 CDにしているのは気の利いたサービスでありますが、文章のイメージと合わないこともある。


本書を著すために著者はプロのカメラマンとパリや南部のノアンを旅した。これもサービス精神のあらわれでせう。おかげで、読者はショパンの生活環境をも知ることができる。尤も、著者が一番書きたかったことは、ショパンの人生を支えた愛人、ジョルジュ・サンドとの濃密で複雑微妙な「愛の暮らし」だった。そこは小説家、まるで二人を間近で見ていたような表現で心の中まで描いている。


もっとも良く知られている曲のひとつ、ポロネーズ第6番「英雄」が生まれたときの場面を小説家はこう書く。(61頁)
 
「やがてうねり波打っていた地の底から、屈強の王が立ち現れる。絶対的で正しい、見上げるばかりの尊厳に満ちた王。ショパンはその王があまたの臣下を引き連れて動き出すのを指で追った。王を記述するショパンの指が、王の強さゆえに震える。いまこうやって、王を讃えることができる自分はなんと幸福な男だろう。(略)ショパンの中に湧き起こった激情を王はすべて受け止め、その容姿と行動で彼の気持ちをさらに強く確かなものにしてゆく。ショパンは王にひれ伏すように鍵盤を叩きつけ、王の声を確認すると素早く譜面に定着していった」(引用終わり)


この文を読むと、王とは祖国の救世主のように想像してしまうけど、さにあらず、王とはショパンの亡き親友、ヤン・マトウシンスキのことだった。ショパン自身、自分は長生きできないと覚悟しているのに、ショパンの一番の理解者、応援者が先に死んでしまった。異国の地で、祖国ポーランドへの夢を語り合った唯一の友はショパンにとって英雄(王)に値した。


本書は、主にショパンと愛人、庇護者であるジョルジュ・サンドとの関係をテーマにした読み物ですが、他の切り口で描いたショパン像もあるので、その本があれば読んで見たいと思います。ポーランド国民にとって最大の英雄はショパン。異国で活躍し、生涯、祖国へ戻らなかったのになぜ英雄なのか。芸術だけではなく、地政学的興味もあります。(2010年 PHP研究所発行)

ショパン







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