読書と音楽の愉しみ



●齋藤孝著「くすぶる力」を読む

 多彩な著作、TVなどメディアでの露出の多さで有名人である著者が、若いころはどうしょうもないくらいの「くすぶり人間」だったと述べている。夢や希望を持ちながら、処世術に欠け、世間で認められない鬱屈した状態を「くすぶる」と表現する。若者のくすぶる生活は、ヘタすると引きこもりに落ちてしまうことがある。


本書では、主に、将来の展望をもちやすい若者を対象に「くすぶる力」の大事さや処世術を述べているけど、中高年でくすぶってる人も多い。サラリーマンの場合、会社の仕事を無難にこなして恙なく定年を迎えた人が、定年後にくすぶってしまい、家庭で粗大ゴミになってしまうケースと、在職中は出世もせず、会社では地味にくすぶったまま定年を迎えた人が、退職後に人が変わったように「脱くすぶり」人間に変身、第二の人生を楽しく過ごすケースがある。二つのケース、どちらが多いかといえば、定年後にくすぶる人のほうが多いでせう。


くすぶることは悪いことではない。くすぶってる間は将来の飛躍への助走、仕込みの時間だと考える。具体的には、やりたいことをイメージするだけでなく、情報を集め、ノートに書き付ける。アタマで「思う」だけでは駄目なのであります。うだつの上がらないサラリーマンが定年後に大変身、生き生きした第二の人生を送る例はたくさんあるけど、そういう人は現役の「くすぶる」時代から着々と夢の実現に向かって準備している。つまり、くすぶる=準備するチャンスと思えば全然苦にならない。


実際には、脱くすぶりで夢や希望がかっこよく実現するわけではない。みみっちい自己満足に終わってしまうこともある。これを避けるには円満な人間関係が必要だし、何よりも、思いを伝える表現能力が必要であります。幸い、今はいろんなメディアを使える時代だから、少しのトレーニングで表現力を高めることができる。


先日発表された第158回芥川賞を見事射止めたのは63歳のおばさんだった。天晴れというしかありません。インタビューでは、子供のころから小説を書くのが夢だったと語っている。ということは、うがった見方すれば、おばさんは半世紀くらいも「くすぶっていた」と。これぞ最高の「くすぶり人生」ではありませんか。(2013年 幻冬舎発行)

■若竹千佐子(63歳)岩手県出身「おらおらでひとりいぐも」で受賞。


くすぶる 







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