読書と音楽の愉しみ



●第157回芥川賞作品 沼田真佑著「影裏」を読む

 十名の選考委員が侃々諤々、激しい議論をして選んだこの作品は、著者の第一作品だった。何年も落選を繰り返しているプロ作家、セミプロ作家を尻目に一作目でパンパカパ~ン、受賞であります。(賞金百万円)


例によって、月刊「文藝春秋」を購入、解体して作品部分のみホチキスで閉じ、テープで化粧。もう慣れた作業であります。単行本で買えば千円もするが、こちらは各委員の選評やインタビュー記事も載っていて断然お買い得であります。 前回(156回)受賞作「しんせかい」は「しょーもな」の一言でおしまいの駄作でありましたが、それに比べたらマシであります。まあ、作品の中身より、今どき、自分は純文学で身を立てるのだ、と真摯に取り組んでる人がいることに感心してしまいます。


話は主人公の私と職場で知り合った同年配の男「日浅」とのなんだかよく分からない関係を綴ったものであります。ストーリーの面白さより、文章の上手さで点を稼いでると思うのは駄目男の偏見でありませうか。たとえば、こんな具合・・・・

 後手に日浅に水筒を渡すと、喉を縦にして美味そうに飲んだ。眠たげな瞼のあいだをいっそう細めて、手の甲で日浅は唇をぬぐい、眉に溜まった汗の滴は指先でつまんでそのへんに捨てた。ゆうべの酒がまだ皮膚の下にのこっているのか、磨きたての銃身のように首もとが油光に輝いている。

 どないです。はじめて書いた小説なのに、このこなれた表現力。こんな巧みな情景描写に、特に女性の審査員は好感をもったらしい。ツボがわかってらっしゃるという感じ。芥川賞候補作らしいキザな言い回しも散りばめてある。題名も十分キザであります。たくさん読んでると、傾向と対策がそこはかとなく感じられます。しかし、ご本人が述べているように、次の作品で苦労するのではないか。生真面目そうな人柄ゆえ、悩みも深いでせう。同じ芥川受賞作家でも、又吉直樹氏や羽田圭介氏とはぜんぜん性格が違うみたいです。(2017年 文藝春秋発行)


駄目男謹製 廉価版「影裏」の表紙 

芥川賞2017





スポンサーサイト