読書と音楽の愉しみ



●三十六代 木村庄之助著
 「大相撲 行司さんのちょっといい話」を読む

大相撲のTV中継、結びの一番は行司のなかで一番えらい「立行司」が仕切ります。この立行司には「木村庄之助」と「式守伊之助」の二名がいて、結びの一番は木村庄之助と決まっている。行司のトップです。・・というのは納得ですが、土俵の勝負はほとんどが1分以内だから、立行司の勤務時間はわずか5~10分くらいでせう。ええ仕事やなあ、とうらやむ人多いのではないでせうか。ほかに仕事は無いのかしらん? という興味もあってこの本を読みました。そうだったのか・・意外な話がけっこうありました。

◆きつい階級社会
 相撲取りにランクがあるように、行司にも「序の口」格から「立行司まで9段ものランクがある。関取とちがって大学卒はいなくて、たいていは中学卒。15歳で就職して定年は65歳だから50年間は勤められるわけです。立派な装束をつけて、えらそーに勝負を仕切ってる立行司が中学卒・・知りませんでした。行司の定員は45名。みなさん相撲協会所属かと思いきゃ違うんですね。相撲取りと同じく部屋所属です。井筒部屋とか、出羽海部屋とか。仕事の中身からいえば、独立した組織のほうが合理的だと思いますが・・。 部屋所属なら三度のメシも関取と一緒に食べる。順番は部屋の師匠(親方)~関取(ランク順)~先輩行司~後輩行司~新米、と、格差社会そのものです。


◆レタリングの名人である
 意外なことの一番は相撲番付表の制作です。歌舞伎の招きという看板と同じような独特の書体で書かれた番付表の原稿を書くのが重要な仕事です。当然、難しい。だから誰でも担当できるものでなく、数名の達筆者が猛練習して書く。手描きだから全員同じ書体にはならず、微妙な違いがある。こんなの、パソコンソフトを使ってるとばかり思い込んでいました。失礼をば致しました。歌舞伎と相撲、いずれも「隙間なくお客が入りますように」という願望を込めて、あんなに黒々した字面にデザインしています。


◆場内アナウンス
 「東方、大関、稀勢の里、茨城県牛久市出身・・」というおなじみのアナウンスも行司の仕事。ただし、声からして中堅行司の役目らしい。勝負後の決まり手のアナウンスも役目です。どの場所も同じ人の声に聞こえてしまうのですが、そんなことはないはず。ばらつきのないようにトレーニングしているのでせうか。これって大事なことだと思います。


◆四股名を考える
 ときに新人力士の四股名を考えることもある。実際には親方が決めることが多いが、名案が浮かばないときは相談相手になる。筆者の命名とは関係ないけど、白鵬のネーミングのいきさつは面白い。新弟子として部屋に配属されてしばらくのとき、原案は「柏鵬」だった。これは当時の人気横綱、柏戸と大鵬から一字ずつ借りたものだが、新米の将来性が全く分からない者には余りに大層な(重い)な名前だと却下。そこで、
柏戸の「柏」の字から木へんを取り、白にした。「白鵬」これなら「厚かましい名前」と言われないで済む。これが命名の由来です。


◆ドジをしたときは・・・
 立行司といえど差し違えるときがある。最高に不名誉なことであります。立行司が短刀を帯びてるのは、差し違えたら責任をとって切腹するという覚悟の証しであります。現実にはどうなのか。翌日に相撲協会へ出向き、理事長に詫びる。これで落着ですが、短期間にドジを繰り返したら辞職ということもある。(2014年 双葉社発行)


「鵬」の字は何回書いても難しい
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