閑人帳



●映画「この世界の片隅に」鑑賞

 大ヒット作「君の名は。」が年寄りにはなじみにくいファンタジーなのにくらべ、これは対照的に生活リアリズムという感じのアニメで、じいさん、ばあさんの鑑賞に十分耐えうる佳作。隣席の中年女性は上映開始まもなくから涙を拭っていたが、ヒロインへの感情移入がつよいのか、あるいは、物語の舞台になった呉や広島出身の人なのかもしれない。


戦争がはじまったころ、すずという世間知らずでおっとりした少女が広島市内から呉の町外れの家へ嫁入りする。月日がたつほどに戦況は悪化し、日々の食料にも事欠くようになり、やがて空襲がはじまる。そんな、当時の日本人の殆どが体験した辛い暮らしを淡々と描くのが主題で、この手のテーマにありがちな反戦をうたう作品ではない。それでも、原作のこうの史代さんは戦争体験者だろうと想像していたが、違った。まだ50才前であり、監督も含めて主なスタッフは戦後生まれなのかもしれない。いや、みんな戦後生まれだからこそ、庶民のくらしを色づけせずに描けたのか。


自分が1100円を投じたのは、単純に戦時中の生活や空襲場面のリアリティに興味があったから・・といっても、5~6才だったから細かい記憶があるはずもないが、それでも頭上を大編隊で飛ぶB29の爆音や戦闘機が急降下しながら機銃掃射するときのエンジン音などしっかり脳に刷り込まれているので、それらが再現できてるか気になるのであります。で、細かいことをいえば、たとえば、呉の町が空襲を受けて焼け野原になった場面はペケでしたね。なんか重機でがれきを片付けたあとのような描き方だった。考証の間違いではなく、単に描画を手抜きした(または意図的に省略)しただけかもしれませんが。


見終わって妙に切なくなるのは、戦時下においては、まわりに悪人などいない平凡な暮らしなのに、常に死が身近にあることです。今なら新聞、TVで大きく報道される事件(しかし、他人事)が、何倍も高い確率で自分に、家族に起きる。この人命の軽さは耐えがたいが、当時はそれが日常だった。


画の表現は水彩画のようなコントラストの小さい、ハーフトーンで表現している。草花や生活用品の描写は考証に力をいれたのかリアル。出色はヒロインのすずを演じた声優さんで、百点満点をつけても良いくらい、見事にハマってます。ただし、広島弁の出来栄えも満点かどうかはわからない。原作者が広島のひとだから監修は行き届いたのではと思いますが。


宮崎駿が引退してもアニメ業界が沈滞するものではないということがオジンにも分かりました。この映画はクラウドファウンディングといって、一般からの出資で制作資金を賄っており、大資本の出資がなくても良い作品がつくれることの証しになりそうです。ただ、営業力や宣伝力では中小企業の悲哀を味わってるかもしれず、ネットや口コミなどでのPRを期待したい。鑑賞した日は雨模様の平日でしたが、ほぼ満席でした。
(11月27日 アポロ劇場)

作品紹介・予告編
http://konosekai.jp/




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