読書と音楽の愉しみ



●中村紘子さん死去

 中村紘子以前にも田中希代子や安川加寿子といった一流の女性ピアニストはいたけど、スター性がぜんぜん無かった。謹厳実直、カタブツのイメージの大御所的存在だった。そんな世界に新風を吹き込んだのが中村紘子であります。ショパンコンクール入賞の威光を背にたちまち人気をかっさらってしまった。コンクールの審査員をするなど、自分を売り込むビジネス的才能も大したものであります。


駄目男が演奏を聴いたのは2回?くらいしかない。デビュー以来、メイクやヘアスタイルは50年間、ずっとワンパターンで通した。だから、クラシック音楽に興味がない人でも、中村紘子というと、なんとなく顔を想像できる。変化があったのはウエストのサイズくらいでありませう。


演奏より楽しんだのがエッセイです。これだけでもメシ食えるやろ、と思うほど達意の文が書ける。しかも、ユーモアのセンスがあって、恥ずかしい失敗談もさらりと書く。『アルゼンチンまでもぐりたい』『ピアニストという蛮族がいる』の2冊は音楽ファンでなくても引き込まれてしまう楽しいエッセイだった。


どちらの本だったか忘れたが、ラフマニノフのことを書いてる文があった。彼は芸術家には珍しい「巨人症」という病気のせいで、やたら身体がでかい。ということは手もでかい。そんな彼が書いたピアノ協奏曲(1番と2番がある)を弾こうとすると、小柄な日本人はとても困ることがある。和音を弾くとき、指が届かないのであります。親指から小指まで、精一杯広げても全然届かない。はた迷惑な病気だとブツクサ言ってもはじまらない。で、中村さんほどの達者でもごまかすしかない・・そうであります。その箇所がオケと協奏する場面だったらバレないだろうとテキトーにごまかしてしまう。


ご当人自らエラソーにしているわけではないけれど、抜きんでた存在感がある・・そんな女流ピアニストは中村紘子と内田光子の両名でせう。彼女らに続く有能なピアニストはわんさといるけど、技術や芸歴の長さだけではカリスマ性は生まれない。努力よりも天性のナニカが大事なのでせうか。



中村紘子 



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