読書と音楽の愉しみ



●適菜収著「日本をダメにしたB層の研究」

 哲学者といえど、ゴリゴリの堅物ばかりではなく、著者のような軟派?もいる。一般人に哲学的見地からモノを言うには、硬派より軟派のほうが理解されやすい。それで本書を著したのでありますが、まあ、残念ながら、世間ではあまりウケなかったみたいで・・。いかにも、の軽薄な装丁も「軽さ」をアピールしたのかもしれないが、効果はイマイチでせう。


著者が言いたいことは、一言でいえば「民主主義への懐疑」であります。わ、そんな難しいテーマでっか? 読むの、やーめた、になりそうなところ、我慢して読む。で、その難儀な大命題はとりあえずヨコへおいといて、書名にあるB層とは何か、であります。ご存じの方もおられると思いますが、これは小泉政権のとき、選挙民の動向を調べるために、ある広告会社が便宜的につくった分析方法で、有権者の階層化を試みた。IQレベルと生活態度の組み合わせで、ABCDの4パターンをつくり、どの層をヨイショすれば得票を稼げるか、と研究したのであります。この調査自体、国民の差別化をはかるものとして批判されたが、著者はこの考え方を借りて、日本をよくする国民とは?、日本をダメにする国民とは?どんなタイプであるかを考察した。う~ん、なんだか感想文の書きにくい本ではあります。


日本をダメにするB層って、具体的にどんな人なのか。著者の言うところを単純化して書くとこうなります。

・小泉政権の郵政改革等、自民党の改革路線を是とした人。

・2009年の選挙で民主党(当時)に投票した人。

・橋下徹の支持者、 古舘伊知郎のファン。

・世間の潮流に敏感。ボランティアなどの社会活動に積極的。


これらに当てはまる人は模範的B層であると。加えて著者が言うに「B層はIQは低いけれど、新聞は読むし、テレビの報道番組もよく見る。その程度で自分は常識をわきまえた社会人だとカン違いしている」要は、世間の上っ面だけ見て、分かったつもりになっている人のことをいう。
 問題は、この類いの人が少数派ではなく、多数派であること。ゆえに、民主主義国家においては、こういう知的レベルの人たちが国家の行く末を決めてしまうことになる。


で、大命題「民主主義への懐疑」に戻るのであります。民主主義を支えてる大衆(の知性)を疑え、であります。まして、議会政治ではなく、国民投票による選択の場合、良い結果を生めば問題ないが、失敗した場合、個人は責任のとりようがない。


この大試練に、今まさに直面しているのが英国の国民投票であります。議会でなく、国民の直接投票によってEUの残留、離脱が決まる。議会制度の歴史、成熟度において日本よりずっとクオリティが高いと思っていた英国で大衆(英国に於けるB層)の知性が試される。


「民主主義への懐疑」につづいて「民主主義が独裁政治を生む」これも著者の持論であります。なじみにくい言いぐさであるが、フランス革命に於けるロベスピエール、ナチスにおけるヒトラーなどを例に、良かれと思った大衆の選択、判断がひどい独裁政治、独裁主義者を生んだことを思い起こせ、という。チャラチャラした今日の情報を仕入れるより、まずは歴史から学べ、というのですが、まあ、なかなか荷の重いテーマであります。


本書を読みながら、昔々、「文明が衰亡するとき」( 高坂正堯/著)という本を読んだことを思い出した。ローマ時代から現代まで、それぞれの時代の先進国で民主主義というシステムをこしらえ、経済的発展も遂げるが、それを維持することが如何に困難であったかを述べた本です。


引き合いに出されるオランダやベネチアという小国の繁栄と衰亡は、日本にとって他人事にあらずで、為政者も国民も一所懸命に頑張ったのに、国家の衰亡は避けられなかった。文明史という大きなスパンで見ると、いかなる国も繁栄は続かないという覚悟が要る。まして変転めまぐるしい現代においては、5年先のことも見通せない。平和で安定した国を築き、維持するためには、優れた政治家や学者の存在は当然として、ベースに民度の高い国民が求められる。つまり、B層のレベルアップです。


100年先はAIが世界を支配している可能性が高いけど、とりあえず我々は何をなすべきなのか。著者が言うのは「しょーもない新聞や本を読むな、テレビをみるな。 賢くなりたければ古典を読め」であります。文中、盛んに引用されるのは、ニーチェ、ゲーテ、ショーペンハウエル、キルケゴール、オルテガ、マックス・ヴェーバー・・・。
 あ、12時や、そろそろ昼メシにしまひょ。(2012年10月 講談社発行)


ここで言うABCD層は上から下への序列ではなく、単なる記号。B層がC層より優れているという意味ではない。
 
B層 


B層




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