読書と音楽の愉しみ



●朝井まかて著「先生のお庭番」を読む

 長崎の出島に暮らして博物学的研究にいそしんだ、F・シーボルトと彼に仕えた園丁、熊吉の物語。シーボルトはてっきりオランダ人と思われていたが、実はドイツ人。ということは、オランダ語は流ちょうではなかったのに、それを見抜ける日本人がいなかった。


江戸幕府は、長崎でのオランダ人の滞在を許可したが、出島という、ごく狭い土地に閉じ込めるかたちで認めただけなので、町で気楽に市民と交流する場面はなかった。よって、市民にとっては、紅毛碧眼の彼らは、動物園でのパンダのごとく、ものすごく好奇の目で見られたらしい。まったく、人種、文化の異なる人間だから、そう見られても仕方ない。


本書では、主にシーボルトの日本における植物採集と分類、育苗の話しが中心になるけど、これは朝井まかて先生、得意の分野だから筆はすいすいと進み、楽しげに書いてる・・と想像したくなるくらいです。
 この本を読んで一番楽しいのは、長崎の風景が目に浮かぶこと。昨年の春に、旅行で二日間、市内をウロウロしたので、記憶がよみがえりました。今も復元工事が続いてる出島のオランダ商館通りとか、なつかしい。さらに、本に「立山町の長崎奉行に引き立てられた」の文があれば、あ、あそこや、と、現在は県立博物館になっている、旧長崎奉行所が思い出されます。今にしておもえば、博物館で、もっとシーボルトの資料をよく見ておけばよかったと、後悔もしますが、ま、しゃーない。(2014年6月 徳間書店発行)


出島のオランダ商館の家並み。まだ工事が続いてる。
まかて



立派な博物館は、昔の長崎奉行所の敷地に建つ。
まかて


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●朝井まかて著「花競べ~向島なずな屋繁盛記~」を読む

 朝井さんの本を読むのは、これで3冊目。すべて江戸時代の物語で、すべて植物が絡む話しになっています。最初に読んだ「すかたん」では、田辺大根ほか、なにわの野菜がテーマ。二冊目の上記「先生のお庭番」はシーボルトが愛した日本の樹木や草花、そして、この本では「花師」という、品種改良を含めた、フラワーデザイナー的職人が主人公になっています。大好きな花や樹木の知識がメシの種になっているなんて、幸せな作家ではありませんか。


しかし、植物ネタで話を盛り上げるのはなかなか難しい。咲いた、枯れた、だけでは売り物にならない。そこで、本書では、ムラサキシキブとソメイヨシノのネーミングにまつわるネタをつくって話を膨らませている。本書では、ソメイヨシノの「吉野」は吉原の花魁の名前だというフィクションになっている。


巻末の「あとがき」を読んで驚いたのは、本書が文壇デビュー作品であること。一発目から、こんなにこなれた文章が書けるのかと感心しました。江戸時代の話なので歴史の蘊蓄も必要だから、猛勉強されたのでせう。これで「小説現代新人賞」を受賞した。そして2014年は「恋歌」で」直木賞というメジャーな賞を獲て文壇入り、大出世だと言えます。
 著者経歴を読むと、朝井さんは大阪文学学校で学んだとあります。これで、本校は芥川賞、直木賞、両方の作家を輩出したことになり、ブランド価値を高めることに貢献しました。なお「まかて」という変わった名前は、当人の沖縄出身の祖母のなまえを借りたということです。ご当人は大阪府羽曳野市出身。(2011年12月 講談社発行)


大阪文学学校のHP
http://www.osaka-bungaku.or.jp/

makate 


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