読書と音楽の愉しみ



●三好範英著「ドイツリスク」を読む

 半年ほど前に、エマニュエル・トッド著「ドイツ帝国が世界を崩壊させる」を読んで、ドイツという国家のありように疑問や不満をもつ国、個人がけっこういることを知った。現在の日本人はドイツ国家やドイツ人に嫌悪感をもっておらず、お互い、良好な関係にあると思っているが、それはお人好しの誤解である。


著者は読売新聞の編集委員。ベルリン支局滞在も長かったから、知識層との交流からドイツ人の思想や倫理観について幅広く学ぶ事ができた。その結果、著者が抱いたドイツ人に対するイメージは「夢見る人」である。安易な言葉であるけれど、とても分かりやすいキーワードだ。(この言葉でドイツ人を表現したのはフィンランドの町長)要するに、ドイツ人の多くはリアリストではない。


著者が一番力を入れて書いているのが「原発・エネルギー問題」である。チェルノブイリ事故で放射能にさらされたドイツは、もともと反原発の思想が強かったが、2011年の福島原発の事故で「脱原発」政策を一気に加速させた。政府も国民も足並みをそろえて、脱原発、再生エネルギーへの転換をはかった。


原発憎し、の国民感情はドイツのメディアの煽りが大きく影響したと著者は云う。福島原発の事故に関しても、まるで朝日新聞のような怪しい情報をまき散らした。
 著者が集めた、新聞やTV情報の一部を紹介すると・・。

◆東京でも高い放射線量が測定された。通常より22倍、とNHKは報じている。多くの住民、特に女性と子供は、放射性雲の恐怖から、すでに南に向かっている。もし、放射能雲が東京まで流れてくるなら、4000万人の住民を襲うことになる。

◆消防隊による原子力建屋への放水作業について、日本には今でも天皇中心の忠誠心があると説き、消防隊員の活動は神風特攻隊の行為に匹敵すると報じた。

◆困難な状況のなか、原発に残って作業する東電職員を、多くの外国メディアは「フクシマ50」と讃えたが、ドイツのメディアは「彼らは、実はホームレス、外国人労働者、未成年労働者だ」と伝えた。

◆2年前の今日、福島で壊滅的な原爆事故が起きた。この大事故において、1万6000人が死亡し、2700人がまだ行方不明である。福島の原発事故は、原子力がいかに制御不能で、命に関わるものであるかを示した。

最後の項目の記事は、事故から2年後の報道だが、これを読むと、1万6000人の死者はすべて原発事故で死んだことになる。悪意むき出しの報道だ。


朝日新聞もビビるようなインチキ記事だが、これらの報道でドイツ人の対日感情は当然悪化した。日本政府がキッパリと脱原発を決めなかったことや、政府や駄目メディアによるええ加減な報道に操られる国民にも嫌悪感を抱く。その裏には「ドイツはこんなに頑張ってるのに」の思いがある。


では、ドイツは自慢できるほどエネルギーのクリーン化がすすんでいるのか。残念ながら、ドイツでは今でも原発が稼働している。2020年代はじめには全廃という計画があったが、結局、2040年まで延期された。いっぽう、2030年までに、自然エネルギーの比率を50%にする目標がある。最終的には80%の電力を自然エネルギーで賄う計画だ。


自然エネルギーによる発電の比率が高まれば、それをバックアップする発電所も増やさなければならない。原発を廃止すると、それは火力発電所が担うことになる。要するに、クリーンではない発電も増やさざるをえないことになる。現実に、ドイツでは総発電量の43%が石炭火力発電に頼っている。しかも、その多くは、二酸化炭素の多い、ドイツ国産の褐炭によるものだから、環境への悪影響という点では日本よりタチが悪い。おまけに、ドイツの電力料金はうなぎ登りで、10年余のあいだい2倍になり、国民に大きな不満が生じている。

(注)世間にはアホな人がいて、自然エネルギーの比率を増やせば、その分、原発や火力発電の比率を下げられると思ってる。実際は、自然エネを増やせば、火力発電も増やさねばならない。太陽光で100万kw発電すれば、100万kwの火力発電所も建設する必要がある。


これは本書以外からの情報だけど、電気代値上がりに悲鳴をあげたドイツの企業は、数年前、こんな企画をした。隣国のチェコに原発を作らせ、その安い電力で操業しようというものだ。チェコ産の電力だから、ドイツのエネルギー政策とは関係ない。原発廃止、自然エネ推進という国策に抵触せず、かつ、安い電気が使える。これって、世界を欺く詐欺ではないのか。(この企画は、チェコ側の採算の問題で立ち消えになった)


合理性という点では大きな疑問があるにも関わらず、ドイツ人の自然エネルギー賛歌は止まない。「夢見る人」と云われる由縁だ。
 EU問題、ロシア、中国への傾斜問題においても「夢見る人」が生み出す難儀な問題を提示しているが、とても複雑なテーマなので割愛します。日本人のなかには何かにつけて「ドイツを見習え」を言いたがる浅ましい人がいるが、本当は「ドイツ人を警戒しろ」でありませう。
(2015年9月 光文社発行)


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