読書と音楽の愉しみ



●島田裕己著「プア充」を読む

 宗教学者が書いた、若者のライフスタイル論。ブラック企業で心身をすり減らして暮らすより、収入は少ないが、自分らしさを生かせる生活を選ぼうという論旨であります。その少ない収入とは「年収300万」を示している。ブラック企業で死にものぐるいで働いて400万の収入を求めるか、無理しない代わりに300万でガマンするか、考えてみようというのです。貧しい(プア)けれど、精神的に充実した暮らしを、というので「プア充」であります。


本書は20~30歳くらいの若者を対象にした本ですが、彼らに対する説得力はいかほどでありませうか。一所懸命に働いて収入を増やしたいという人と、とりあえずメシが食えたらいい、朝から晩までこき使われるなんて真っ平、という人とでは、金銭哲学が違うから、俄に優劣を言うことはできないが、世間ではおおむね前者が多数派ではないか、と思います。


「プア充」でいいというのなら、無理して大学へ行く必要もないわけで、現在の進学率を考えると、プア充を是とする若者は少数派でせう。むろん、社会人になってから考えを変えて「プア充」に転向することもできます。ブラック企業でこき使われた挙げ句に自殺、なんて悲しい事件を知ると、プア充のほうがベターであることも納得できます。


プア充を選ぶ具体的指針として、著者の提言は・・
◇ベンチャー企業は安定しないので、プア充には向いてない。古くてダサくて地味な会社を選ぶべき。
◇仕事にやりがいを求める必要は無い。成果に価値を見いだすと、ブラック企業でも辞められなくなる。
◇ふだん、禁欲生活をするからこそ、たまの「ハレ」の日の価値が分かる。
◇お金に対する欲望は際限が無い。それより、無い、足りないことでお金の有り難みが分かる。(以下略)


本書の発行は2013年8月で、すでに2年以上経ちましたが、たくさん売れたとか、「プア充」という言葉が流行語になったということを聞かない。著者の目論見は外れたと言えます。
 仕事にやりがいを求め、結果としての高収入を目指す「成長願望」を敢えて否定する論ですから、世間では、プアで充実した生き方は敗者の論理と解されるのではないでせうか。高収入を目指す意図には「老後の安定した暮らし」の資金にしたいという目標もあり、毎月カツカツ、貯金するゆとりのない低収入生活に甘んじることはできないと思うのが普通だと思います。著者は「プア充」の老後の暮らしにまでは思いが及んでいないようです。(2013年8月 早川書房発行)

プア充




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