読書と音楽の愉しみ



●井沢元彦・和田秀樹著
 「日本史 汚名返上 ~悪人たちの真実~」を読む 

 日本人は善悪をはっきり決めたいタチなので、日本の歴史のなかでも、ヒーロー(正義・善の人)と悪者、いずれかに区分する傾向があります。不幸にも「ワル」にされてしまった人物は本当に悪い人間だったのか、検証してみようというのが本書の趣旨です。


和田秀樹氏は心理学者で、その専門知識を生かしてワルにされた人物の人間的資質を再考する。むろん、歴史通でもあります。本書は二人の対談形式で編集されており、発言の過半は井沢氏ですが、その博識ぶりには驚いてしまいます。


取り上げられたワルは10人。平将門、徳川綱吉、道鏡、田沼意次、蘇我入鹿、井伊直弼、吉良上野介、平清盛、足利尊氏、織田信長。なるほど、お主ら、ワルよのう・・な面々、まずは順当な選択だと思います。織田信長は功罪相半ばという気もしますけど。


いちいち紹介できないので、ここでは、駄目男が一番興味をもって読んだ、井伊直弼だけ取り上げます。かの「安政の大獄」で悪評紛々の家老です。

 幕府家老のトップ、井伊直弼はアメリカから通商条約締結を迫られていた。是か非か、どちらの場合も最終的には天皇の承諾が必要だが、当時の孝明天皇は強烈な攘夷思想の持ち主で、到底OKは期待できず、さりとて締結しなければ武力攻撃される懸念がある。井伊直弼は苦渋の決断で「条約締結」してしまった。当然、攘夷派からは非難の嵐。その挙げ句、あの「桜田門外の変」テロで殺されてしまう。


井沢氏の井伊直弼擁護論は明快です。もし、あのとき、条約締結を拒んだら、アヘン戦争における中国(清)のように、欧米各国から武力でボコボコにされ、支配下に置かれたことは確実だ。ヘタすれば白人社会の植民地にされた。攘夷派の思想「日本は清浄な神の国であり、外国と交流する必要などない」はあまりにとんがったナショナリズムである。


攘夷派の本家は水戸藩、対して、薩摩や長州は開国推進派。選択を迫られて、井伊直弼は「勝ち目の無い戦争は避けるべき」と開国の決断をした。これは、長い目でみれば正しい判断だった。もし、攘夷派に組して開国拒否にしていたら・・その後の日本の有り様を想定すれば、文明文化の発展した一流国になり得たか、いささか疑問であります。植民地にされていたら、50~100年は暗黒時代を送るハメになり、現代の私たちの暮らしはあり得ない。


なのに、井伊直弼はなぜ悪者扱いされるのか。それは彼の反対派に対する怨念と意趣返しが激しすぎたから。吉田松陰や橋本左内のような開明派を含めて、好かんタコは全部粛清した。百人以上が死罪にされた。このえげつなさが世論の反感を買う。まあ、仕方ないですね。
 死罪でなく、島流し10年とかの刑にしておけば、これほど憎まれなかったかも知れず、暗殺も免れたかも知れない。ともあれ、国家を左右する大きな決断を強いられ、開国をOKしたら、恨まれてあの世行き。損な役回りでした。(2014年 光文社発行)



汚名返上






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