読書と音楽の愉しみ



●第153回 芥川賞受賞作品

◆又吉直樹著「火花」
◆羽田圭介著「スクラップ・アンド・ビルド」
 を読む


 芥川賞受賞作品はいつも「文藝春秋」誌で読みます。単行本を買うより安上がりであるというケチな理由のほかに、選考委員の選評が読めることと、著者へのインタビュー記事もあるからです。単行本で作品だけ読むよりずっと中身の濃い読書になります。特に、選評を読むのは大いなる楽しみです。むろん、そんなの余計な情報だという文学ファンもおられるでせう。


◆又吉直樹著「火花」を読む

 単行本で約200万冊、この月刊「文藝春秋」で約100万冊、合計300万冊が流通している、久しぶりの大ヒット作品です。大人の30人に一人が読むことになります。(1億人÷300万=33人)
 
 そんなに人気作なら、選考委員会でも圧倒的支持を得たのか、というと、意外に「推薦」に手を上げなかった人が9人中3人いた。高樹のぶ子、村上龍、奥泉光、の三氏。ほかに、島田雅彦氏はΔ。 誉める、貶す、がくっきりと分かれているのが他の候補作と違うところであります。


現役のお笑い芸人が、思いっきり架空の天才お笑い芸人の生き方を描いた作品。しかし、その天才お笑い芸人が世間では「売れない」芸人でもあることで、主人公は尊敬しつつバカ呼ばわりしたりと本性をつかめないまま密着付き合いをする。その悲哀が一人称で語られる。会話文はすべて大阪弁。


著者はガキの時分から読書好きで、かつ小学生のときに漫才の台本を書いていたというヘンな子だった。好きな小説は太宰治や芥川龍之介など純文学畑の作品。今回、初めての著作なのに文章が練れているのは長いトレーニングの賜でありませう。新人作家がウケ狙いでつくるレトリックも適当に散りばめられていて抜かりない。漫才師にこんな人材がいたのかと正直びっくりします。(この人の漫才、TVでも見たことがないけど)


駄目男の気に入らない点は、村上龍氏が指摘する欠点と同じく「長すぎる」ことであります。この程度の内容なら、ページ数を2割くらい減らしてほしい。読んでいて「くどい」と感じます。
 読者は次作にも期待するでせう。えらいプレッシャーです。次も、その次も芸能界モノしか書けなかったら「無能」のレッテルを貼られるかもしれない。漫才なんか、やってられへん・・になりそうな予感。


又吉直樹 吉本にこんな人いたかなあ
芥川賞


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◆羽田圭介著「スクラップ・アンド・ビルド」
 を読む

 いわゆる「介護もの」といわれるジャンルの小説。といえば陰気な物語を想像するけど、表現がわりあいカラッとしているので救われます。
駄目男のような老い先短い者にとっては「火花」よりずっとリアリティが高い、切実なテーマです。著者は今年30歳。


28歳の「僕」と80歳代の祖父が主役で、無職、就活中の僕は祖父の介護役をせざるをえない。陰気な祖父は念仏のように「早く死にたい」「お迎えが来てほしい」が口癖、しかし、まだ寝たきりではないのが救いだ。
 「僕」はそんな祖父を露骨に邪魔者扱いし、殺人ではないけど早く死なせるにはどうしたらよいか考える。介護してると見せかけてスピーディに衰弱させ、わずかな入院期間であの世へ送る。これが良いと考えて実行にかかるが、もう半分「死に体」のはずの祖父が妙に「生」への執着を見せたりして思うようにはかどらない。こんなはずでは・・。

 ここから引用・・・
「このフロアには、祖父と同じように全身チューブだらけの延命措置を受けている、自然の摂理に任せておけばとっくに死んでいるであろう老人たちの姿しかない。苦しみに耐え抜いた先にも死しか待っていない人たちの切なる願いを健康な者たちは理解しようとせず、苦しくても、それでも生き続ける方が良いなどと、人生の先輩に対し、紋切り型のセリフを言うしか能が無い。未来の無い老人にそんなことを言うのは、それこそ思考停止だろうと、健斗(僕)は少し前までの自分をも軽蔑する」
(引用終わり)


ま、成人なら二人に一人は、これに近い場面を経験してると思います。本人が早く死にたいと望み、家族も「長生きは無意味」と認識している。だからといって・・。送る側も、送られる側も、生身の人間であるゆえに「正解」はなかなか見つからない。
 個人的には、尊厳死(安楽死)の解釈を広げて、本人の意思で死を選択できる国民的コンセンサスが広まればいいと考えます。


プチ・ケチ読書法
カッターナイフで小説の部分だけ切り抜き、ホッチキスで留める。厚さ5ミリくらいなので持ち歩きに便利です。
芥川








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