閑人帳



●エマニュエル・トッド著

「ドイツ帝国が世界を崩壊させる」を読む


 たまには硬い本も読みます。なんだか物騒なタイトルですが、昨今のギリシャ問題でドイツの厳しい対処ぶりが目だっているだけに、さもありなん、と思わせるテーマです。
 共通通貨を横軸に28の国家が参加するEUですが、お互い、国家の主権は尊重しつつも、経済・金融面での発言権は圧倒的にドイツが強く、大げさにいえば、1強27弱なのが実情です。フランス人の著者は、皮肉を込めて「オランドはドイツの副首相」と言っている。フランスの大統領はドイツ首相メルケルの部下でしかないと言うのです。


これは、普通にEUの報道を見てる人には納得できることで、オランドはメルケルとの交渉で明快にノンと言ったことが無い。常にドイツが主導権を握っている。アジアでいえば中国と韓国の関係みたいなものだ。韓国は中国に万年頭が上がらない。
 ウクライナ紛争が起きたとき、表向きはEUとロシアの対決となったが、実際はドイツとロシア対峙であって、EUの小国は「その他大勢」でしかなかった。連合はタテマエに過ぎず、ドイツの方針がEUの方針の方針になる。ロシアから見たら、ドイツ以外は眼中になしとなる。


本書には最新の「ギリシャ問題」は取り上げていないが、悪ガキ、ギリシャに対処するのはほとんどドイツである。ドイツとギリシャの喧嘩のように見える。フランス、イタリア、ベルギーなどを除く大半の加盟国は傍観するしかない。だからといって、多くの加盟国がドイツの対応に共感しているのではない。表に表れないが、EU内に少しずつひびが入ってきた、というのが実情である。このようなドイツの覇権主義的行動に著者は苛立っている。


EUが発足したとき、欧州における長年の理想が実現したと、欧州以外の国も彼らの英断と協調精神を讃えた。今日のギリシャ問題なんか想像外だった。平等を謳ったのに、気がつけばドイツのみがたっぷりと甘い汁を吸い、大きな格差が生まれた。ギリシャは事実上、主権を奪われ、独立国とは言えない、日本でいえば「生活保護世帯」みたいな国に落ちぶれた。


国家間の協調による通貨の統一は素晴らしいように思えたが、各国が自らの判断でレートを決められない(主体性が無い)というのは、やはりマズイ。経済力がマチマチなのにレートが同じなら、必ず得をする国と貧乏くじを引く国が出てくる。結局、EUではドイツが一人勝ちして、他国を経済的に支配することになってしまった。ドイツは、軍事力ではなく、経済力の差異で他国の主権を奪う「帝国主義」国家になりつつある。早晩、「EU内の内輪もめ」に留まらず、国際的な問題になりそうだ。(2015年5月 文藝春秋社発行)


EUを構成する国
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