閑人帳



●野村萬斎演じる「山月記」「名人伝」


中島敦ファン、全員集合・・のダシモノであります。隣が火事でも出かけねばなりませぬ。この名作を狂言師がステージではどう表現するのか、興味深い。もっとも、初演は2005年だから10年ぶりの再演になり、より洗練された演出がなされたはずです。萬斎の父、万作は85歳という高齢のため、今回は2作とも萬斎が主演。


ゲージツ性を考え過ぎて、難解な観念ドラマになっては困るナと、少しは危惧していたのですが、杞憂でした。「山月記」は朗読を中心に、ほぼ原作通りの運びで、高慢な性格のせいで出世出来ず、悶々と悩んだ挙げ句に山に籠もったら、人食い虎になってしまった・・という、中国駄目男の悲劇です。暗やみに近い舞台で声だけ響くといった感じですが、
これが正解かもしれない。複数の助演者のセリフを、能舞台の地謡のように聴かせるのもアイデアか。


舞台上手手前に、尺八の藤原道三、下手に大鼓の亀井広忠が構えて、なかなか効果的な音楽を奏する。大鼓の音色がとても金属的に聞こえたが、もしや、ミキサーで調整していたのかもしれない。


「名人伝」は原作の雰囲気を大きく変えて、半ば喜劇風に演出。2作とも深刻ドラマに仕立てては客受けしないことを察しての工夫でせう。弓矢の名人と、弟子入りした若者の腕比べがテーマで、舞台表現はとても難しいところ、スクリーンにユーモラスな動画を映して笑いを取るという案で成功しました。ラストは原作に少々解釈をプラスして終わる。


究極の弓矢の名人とはいかなる腕前の持ち主か。もう師匠並みに上達したと自信をもった弟子は師匠に決闘を申し出る。応じた師匠は弟子と向かい合い、相手の心臓を狙って矢を放つ・・しかし、二人のまん中で矢と矢が衝突して落ちてしまう。(この場面はスクリーンに漫画で映す)
 師匠いわく、こんなハイテク使っても名人とは言わないゾ。もっと上があると。では、究極のワザとはいかなるものか。


矢を放って獲物を仕留めるのは「射の射」だ。これは練習で達せられるワザだ。究極の名人芸は「不射の射」。矢を放たずに獲物を得るのだ。名人はついにこれを極めた。その時から、鳥たちは、名人の住む家の上空を避けて飛ぶようになった・・オシマイ。(7月8日 兵庫芸術文化センター 中ホール)


中島敦に扮した野村萬斎(チラシ)
山月記

野村萬斎 解説
https://www.youtube.com/watch?v=xekRliRkzEM


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