読書と音楽の愉しみ



●前川恵司著「慰安婦虚報の真実」を読む

 
定年まで勤めた朝日新聞を退職したあとに、こんな朝日新聞告発の本を出した。その動機は止むにやまれぬ正義感のゆえか、それとも売名の手段か。答えは「両方、半分ずつ」でありませう。
 昨年の「慰安婦問題誤報・謝罪」騒ぎのあと、朝日の現役記者有志が「朝日新聞 ~日本型組織の崩壊~」という暴露本を出し、今回は退職者による告発本の出版。でも、これは朝日にとっては特異なできごとではなく、退職後に反朝日に転向した記者はたくさんいる。在職中から醒めた目で会社を見ている記者がいるということです。


本書は元朝日記者による慰安婦問題のおさらい、という内容。もう食傷気味であります。慰安婦問題本を読むのはこれでオシマイにしたい。
 ところで、「慰安婦」という言葉は、かの吉田清治が言い出したのではなく、元毎日新聞記者の千田夏光(かこう)という人物で、1973年ごろ「従軍慰安婦」なる本を著したのが最初だった。先輩がいたのである。そしてこの本も「キワモノ」だったと著者は書いている。毎日新聞が朝日の慰安婦報道を厳しく批判しないのは、こんないきさつがあったからなのか。


では、本書は、朝日の元ソウル特派員として、捏造報道を一刀両断してクロと断罪しているのか、といえば、なんだか歯切れが悪いのあります。ま、かつての職場の悪口を書くのだから、コイツが悪いと個人名をあげて批判するのは辛い。腰が引けてしまう。同僚、後輩で名前が出るのは植村隆元記者だけです。植村隆は世間で「ワル」の認識ができてるので自分も気兼ねせずに批判しますというスタンス。文章表現で「~ではなかろうか」とか「~かもしれない」という言い方が多くて、全体になまくら刀みたいな切れ味の悪さを感じてしまう。


もう一つ解せないのは、慰安婦報道問題について当事者の一人であり、植村記者より多くの情報と取材経験をもっていたのに、捏造報道にブレーキをかけられなかったのか、ということです。退職してから「虚報の真実」を言うのもいいけど、捏造報道の過程を知りながら、見て見ぬふりをしていたのか、と疑いたくなる。
 ま、これを言うと、朝日新聞の権力闘争のハナシになってしまい、生々しくて書けないでせう。そんなことまでして朝日に嫌われたくないと考える元新聞記者のバランス感覚が働いています。

 おかげさまで、慰安婦問題に限らず、朝日新聞のスキャンダル史に関しては、朝日の読者よりはるかに物知りになった。朝日さん、おおきに。(2014年9月 小学館発行)


朝日慰安婦本







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