読書と音楽の愉しみ



●藻谷浩介他著「里山資本主義」を読む

 6月9日の記事でNHK批判の本を紹介しましたが、本書の共著者はNHK広島の職員。反日思想にかぶれる、アホな職員がいる反面、まじめに仕事に取り組む職員もいるという見本です。


里山資本主義とは、グローバル経済やマネー資本主義という世界的潮流に抗して、地産地消というか、地方から経済の枠組みを変えていこうという発想です。里山という言葉には、地方の天然資源、人材、生活スタイルなどの概念が含まれます。地味な本なのに、2013年の発売以来、7版で数十万部売れたので、ご存じの方もおられるでせう。


ここでは堅苦しい思想、理念の話は割愛して、里山資本主義をリアルに実現している岡山県真庭市の例を紹介します。
 過疎化が進む山間地では、不況、衰退の見本みたいに思われていた林業、製材業が「発想の転換」で大逆転、政府が唱える地方創成のモデルみたいに脚光を浴びています。


主役は「銘建工業」という製材、建材製造業者。従業員は約250人の、地方では中規模の会社ですが、長年、横ばい、ジリ貧の業績に悩んでいた。同業社もみんな似たような、衰退産業の見本みたいな会社ばかり。 このままでは、ジリ貧の果てに倒産という危機に、社長の中島さんは必死のパッチでアイデアを絞り出す。それが「木質バイオマス発電」事業だった。


なんのこっちゃい?な名称であります。 これは、山から切り出した木材を製材、加工する工程で大量に発生する木屑を燃料にして発電するシステム。会社の敷地に10億円かけて建設した。
 同社が出す木屑は年間4万トンにもなる。これを従来は産廃業者に依頼してゴミとして処分していた。その費用が年間2億4000万円。バイオマス発電の能力は2000kwで、これの燃料に木屑を使うと、工場の電気はすべてまかなえるだけでなく、余る。年間の電気代1億円が浮いた。


木屑はゴミ、という常識をエネルギー資源という発想に変えたことで、パンパカパ~ン! 会社の未来が一気に明るくなりました。中島社長のアイデア、決断力に拍手であります。
 この転換で、単純に計算すれば、年間4億円のプラスになった。年商200億程度の会社にとって、この効果は大きい。さらにツイてるというか、東北大震災のあと、電気の買い取り価格が大幅にアップしたため、売電収入もぐんと増えた。10億円の投資は楽々償却できます。


単に電気代が浮いたという話では収まらない。発電事業によって産廃物の削減、新たな雇用の創出、そして「お金の循環」が生まれた。要するに景気が良くなった。将来の不安に悩んでいた社員のモチベーションも上がった。一般家庭用の木質ペレットの生産などで新商品の売上げも伸びる。会社が元気になれば、町の雰囲気も明るくなる・・かくして銘建工業は田舎の落ち目の中小企業から、時代を先取りするニュービジネスに変身したのであります。
 元気ハツラツ社長さんはこれで満足せず、さらなる飛躍をはかった。もう一つ大型の発電所を計画、これが今年操業を開始しました。この事業の成果については、時間差で当然本書には書いていないため、ネット情報を引用します。


新発電所は出力1万kw、これで真庭市(人口5,6万人)の電力の4割をまかなえる。さらにもう一つ増やして、将来は電力の100%を自給自足する計画です。これが実現すれば大ニュースになるでせう。なにせ、電力はすべて輸入資源か原子力発電でまかなうという常識を覆すのですから。太陽光や風力発電では不可能な、安定した発電システムというのが大きな魅力です。むろん、これは真庭市にしかできないという特異な事業ではない。山林資源に恵まれた日本では全国で追随が可能です。(燃料は木材クズだけでなく、家庭ゴミや家畜の糞も使うのでバイオマス発電と呼ばれる)


もう一つ、同社は「CLT」という新しい集成材を開発して建築業界に革新を起こそうとしています。木製パネルを組み合わせて、一般住宅だけでなく、5階建てとか、従来の木造建物感覚から脱した集合住宅やビルの普及を目指しています。実現すれば木材の需要が大幅に増え、輸入材に押されて低迷していた国産木材の利用が進みます。大きな建物は鉄筋コンクリート造りという常識が覆る。学校建物などを先鞭に開発をすれば認知が進み、大流行になりそうです。もちろん、耐震性や耐火性など、厳しい条件をクリアした上での採用です。


・・という具合で、数十年間、衰退を続けてきた林業や製材、加工業に陽が当たるようになりました。岡山の田舎の一つの会社のチャレンジが国政につながる大きな成果を生んでいる。といっても、技術的にはすごいハイテクというビジネスではないので雇用増大に期待でき、何より地方にお金が回るという経済効果が大きい。


私たちの経済観念はとかくグローバル化とか、マクロ的な見方を優先しがちですが、どっこい、近くの田舎、故郷に「里山資本主義」という魅力的な生産、流通システムを掘り起こすことができる。アラブがどうたら、シェールオイルがどうたらと気を揉むだけが経済常識ではない。日本は里山という再生可能な大資源を有する国なのだと認識するべきであります。(2013年7月 KADOKAWA発行)


参考・引用情報
http://college.nikkei.co.jp/article/28164514.html



工場敷地につくった発電所。中央の建物は燃料の木屑を入れるサイロ

里山 


集成材パネルでつくった、ビルのような集合住宅(高知)
里山




satoyama honn 






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