読書と音楽の愉しみ



●原田伊織著「明治維新という過ち」を読む

司馬遼太郎の歴史観をコテンパンに批判
 TSさんからまたまた面白い本を送呈してもらいました。幕末史や明治維新に興味有る人は必読であります。何が面白いのか。明治維新に関しては司馬遼太郎の歴史観(いわゆる司馬史観)を真っ向から批判、否定しているからです。 因果なことに、著者は司馬さんの大学(大阪外大)の後輩という立場です。むろん、単純にケンカを売ってるのではなく、司馬遼太郎の業績全体については尊敬の念を抱いてますが、コト、明治維新に関しては真逆の考えをもっています。司馬史観がもう常識のように普遍化していることに「黙ってられへん!」と反旗を翻した。


吉田松陰はテロリスト集団の主犯だ
 著者は、明治維新で重要な役割を果たした?人物のうち、徳川斉昭、徳川慶喜、水戸光圀(黄門)の三人を幕末の三馬鹿呼ばわりしている。藩でいえば、長州藩、薩摩藩、水戸藩がサイテー、ボロクソであります。逆に、司馬サンはめっぽう長州藩ひいきだった。もちろん、吉田松陰は維新のヒーロー扱いであります。
 その吉田松陰と仲間の髙杉晋作や久坂玄瑞を著者はテロリスト呼ばわりするのだから司馬ファンは心中穏やかではありますまい。私たちが常識としていた、あるいは学校で教えられた明治維新のイメージがぐわらりと揺るぎます。本書を読む限り、吉田松陰は知性や教養を備えた青年ではなく、自分の考えに合わない政治家(藩主や老中)や外国人は片っ端から暗殺によってでも消してしまいたい過激な思想の持ち主だった。


124頁の文を引用すると・・・
 例えば、吉田松陰の外交思想というものは余り語られないが、実に稚拙なものだった。北海道を開拓し、カムチャッカからオホーツク一帯を占拠し、琉球を日本領とし、朝鮮を属国とし、満州、台湾、フィリピンを領有するべきだと言うのである。(略)
 一体、松陰はどういう国学を、どういう兵学を勉強したのか。恐ろしいことは、長州、薩摩の世になったその後の日本が、長州閥の支配する帝国陸軍を中核勢力として、松陰の主張した通り、朝鮮から満州を侵略し、カムチャッカから南方に至る広大なエリアに軍事進出して国家を滅ぼしたという、紛れもない事実を私たち日本人が体験したことである。
(略)


著者が一番言いたかったことはコレです。若き吉田松陰や坂本龍馬の活躍によって成し遂げられた明治維新・・ではあるけれど、彼らの後輩である山県有朋や伊藤博文は帝国陸軍創設を経て、結局、大陸侵攻を果たし、日清、日露戦争で戦争のノウハウを磨いた後、大東亜戦争に突入してしまった。コンポンである明治維新は本当に正しかったのか?


司馬遼太郎はどう考えたか
 明治維新礼賛者である司馬遼太郎センセはこういう。維新から大東亜戦争までの歴史のうち、明治の終わり(日露戦争後)から昭和の開戦までは歴史の連続性がない。プッツンしていると。日露戦争勝利のあと、陸軍を主とした軍閥が国家を牛耳り、国民から離れた独裁政治に走ってしまった。この40年間は維新の精神とはほど遠い劣化した国家だった。歴史の流れから切り離したい「異物」みたいなものだという。素晴らしい明治維新の延長上に昭和の軍国主義が生まれたなんて認めまへんで!と、えらいお怒りです。 
 

著者は反論します。センセが昭和の軍事政権にものすごい嫌悪感、軽蔑の念を抱いてるのは解るが、だからといって、あんなカスみたいな時代、日本の歴史の一部として認めたくないというのは過ぎたる偏見ではないかと。
 明治維新は必然であって、それ自体は否定しないが、維新の概念はずっと後の昭和のはじめ頃に長州閥の思想で生まれた。明治維新という名称もその頃にできて普及した。明治時代に明治維新の概念ができたのではない。


明治維新を見直せ
 趣味娯楽で読んだはずの歴史小説が、いつのまにか読者の頭の中で固有の歴史常識になってしまうことは普通にあります。坂本龍馬は実在の人物ですが、坂本竜馬は小説の主人公です。作者は誤解をさけるために龍馬を竜馬に変え「これは小説です」と断りを入れている。しかし、竜馬=龍馬と思い違いしてしまいがちです。


明治維新における吉田松陰も、死後何十年も経ってから為政者の都合の良い人物像に作り直され、偉大な先駆者として崇拝の対象になった。そのリメークされた吉田松陰像が私たちの常識になっている。神格化されて「松陰神社」まであるのだから、ご本人は「モテすぎや、ククク」とあの世で笑ってるかもしれない。


著者は、この松陰の虚像が実像化されてることにガマンできない。ヨイショした司馬遼太郎を許せない。非力と分かっていても明治維新のインチキぶりを世に訴えたい・・ので、本書を著した。売れ行きはどうなのでせうか。30万部くらい出たら、少しは「常識」にインパクトを与えるかも、と思います。(2015年1月 毎日ワンズ発行) 



明治維新という過ち




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