読書と音楽の愉しみ


●川上武志著「原発放浪記」を読む

 原発の工事現場で働く末端労働者のレポート。雇用のありかた、労働環境、放射能リスクを避けるための規則など、私的経験を綴っている。放浪記という題名から察せられるように、原発現場の工事作業員は定住することは無く、発電所の新増設、定期点検工事の現場を追っかけて日本中を転々とする。彼らの身分は電力会社から見たら子会社~下請け~孫請け・・と系列の末端に位置し、身分保障は無いに等しい。


逆に言えば、入社、退社もルーズで規則に縛られない、出入りが自由な会社ということもできる。従って学校を出てすぐこの仕事につく人はなく、あちこちの職場を転々とした挙げ句に就職するとか、ヤクザが足を洗っても就職先が見つからず、ここで拾われるというケースもある。


公務員や堅気のサラリーマンから見たら「あり得ん!」職場遍歴に思えるけど、では原発労働者の大半が就職してもすぐ辞めてしまうのかというとそうでもない。過酷な仕事もあるが、それは稀で、普通は一般の土木建設労働より実働時間が少なく、残業や休日出勤はほとんどない。昇進昇格でストレスが起きることもなく、宿舎や寮もあって高い家賃に悩むことも無い。割り切ってしまえば、決して「辛い仕事」ではないので、さしたる抵抗もなく日本中の原発を転々と「放浪」する人が多い。


コツコツと貯金して将来はマイホームを建てて・・というタイプの人は皆無に近い。生き方自体が行き当たりばったり、給料をもらったらギャンブルやフーゾクでたちまち散財してしまい、足りずに会社から前借りする。この借金で会社に縛られてしまう。
 稀に、生真面目で仲間と遊びほうけたりしない人もいるが、異端者として職場でいじめに遭いやすい。フーテンの寅さんが全国の縁日めぐりをするように、彼らは原発を転々として糊口を凌ぐといった感じである。


読者として気になるのは放射線の被爆の怖さ。著者の場合、一番恐ろしかったのは蒸気発生器という原子炉の隣の施設でロボットの設置をする作業。一人一回に許される作業時間が15秒という「地獄の釜」みたいな空間で、さすがに生きた心地がしなかった。でも、こんな地獄は滅多にない。10年、20年、原発を放浪しても放射線を大量に浴びて死亡という労働災害は、今のところ皆無に近いようだが、将来は分からない。


すべての原発が止まっている現在、ほとんどが失業状態だけど、福島だけは旺盛な需要があるはず。蓄積被曝線量の問題で、同じ人が長期間働くわけにはいかないから、大人数を駆使するローテーションで危険な仕事をこなしてる。誰も言わないけれど、恐ろしい「人体実験中」の職場であること、間違いない。(2011年9月 宝島社発行)


原発放浪

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