閑人帳
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●「フェイク美空ひばり」AI創造の苦労 ~Nスペ~
9月29日、たまたま見たこの番組、30年前に亡くなった美空ひばりをAI技術で蘇らそうという企画で、準備、制作に一年がかりという。こんなゼニと手間のかかる番組はNHKしか出来ない。ひばりの歌や人相、体格、しぐさ、全部AIに入力し、自ら学習させて新しい歌を歌わせる。要するに、ひばりの再生ではなく、創造であります。彼女が生きていたら、この新しい歌はこんなふうに歌ったはず、と想定し、スタジオにひばりのファンを招いてコンサートを行った。伴奏のオーケストラは生身の人間であります。
なぜ、この番組に興味があったのかというと、かねてより、美空ひばりの歌が独特の歌唱力、雰囲気をもっているのは、違う周波数の声を同時に出して歌ってるのでは、という疑いをもっていたから。楽譜通りのメインの音程とそれより弱くて音域の高いサブの音程を同時に出してるのではないかと疑っていた。これがコンピュータの解析でアタリだったと分かりました。(番組では高次倍音と言っていたような・・)
こんなの天性のワザで他人がマネできない。のど自慢なんかでひばりをマネする人はたくさんいるけど、声の質は似ていてもそっくりとはほど遠い声しか出ない。
番組では、その例として「川の流れのように」を取り上げていたけど、もっと分かりやすいのはスローテンポの「悲しい酒」だと思う。図太いといえる低音とその何倍か高い高音を同時に出していてとても魅力的であります。ひばりを師と崇めている天童よしみの声を聞き比べたらよく分かる。
ひばりの声の再現、創造にエンジニアがものすごく苦労したことを詳しく伝えていて、それは納得しましたが、肝心の画像がイマイチでリアルさが乏しい。デジタル技術の限界かな、と思わせます。亡くなった人をAIで三次元再生することには道徳上の問題もありそう。実在した美空ひばりと架空の初音ミクを一緒に扱ってよいのか、ということです。賛否を問われたら、自分は「死者の再生」には反対であります。不完全な再生より、イメージのなかで生き続けるほうが良い。
リアルさはイマイチの再現美空ひばり像。マイクを持つ手が不自然に小さい。
フェイク美空ひばりの歌に涙ぐむ天童よしみ。右は息子の加藤一也氏