読書と音楽の愉しみ
読書感想文
●養老孟司:隈研吾著
「日本人はどう住まうべきか」を読む
隈氏はいうまでもなく、オリンピックスタジアムの設計者。(この本を出したときは、五輪の話はまだなかった)両者の因縁はなにかというと、共に栄光学園というカトリック系の中高校出身であること。どうやら、養老センセが隈氏の仕事ぶりに興味をもってこの本が出来たらしい。
2011年の東日本大震災から10ヶ月ほどたって、日本人はどこにどんな住まい方をすれば良いのか、改めて考えてみようという反省や希望を自由に語っている対談本です。しかし、壮大かつ抽象的テーマなので両名とも言いたいこと言いっぱなしの感があり、オチがつかない。まあ、結論に導く必要もないのですが。
日本人の住まいに関するスタイルは未だに高度成長期のマイホーム感覚を引きずっている。郊外の一戸建てか、都会のマンションか、先祖から引き継ぐ土地、家の継承か、であります。そして持ち家の主の多くは生涯の大半を住宅ローンで縛られる。どこへ住もうと全く自由なのに、不自由に耐えてしがみついてる人が多い。そこで、養老センセは「参勤交代」という暮らし方を提案する。江戸時代の殿様のように、本家と別宅(江戸)を行ったり来たりする暮らし、現代でいえば、都会とローカルを上手に住み分けるライフスタイルをすすめます。
お金持ちは、それを別荘というかたちで実現しているが、庶民も別荘はムリでも田舎の別宅の感覚で実現しては、という。これで都会の過密と田舎の過疎の問題解決に少し役立つのではないか。過疎地の不動産価格がどんどん安くなっていることを考えれば、庶民でも実現できるのでは、とのたまうのであります。ま、御説ご尤もで、在宅ワーク等の働き方改革が進めば普及するかもしれません。しかし、二軒の家を所有しつつの参勤交代は余程不動産価格の低下がなければ難しい。そこんところは「だまし、だまし」の柔らかい発想で対応しようと言うのですが。
それはさておき、隈氏のデザインする建築は、安藤忠雄氏と対照的な表現であることから、当分は人気を二分する建築家として知名度を高めると思います。丹下健三や黒川紀章のように大家ぶらないところが隈氏のよいところで、なんか年中Tシャツ姿で仕事してるみたいな印象がある。読んだことないけど、「負ける建築」なんて本を書いてるのもこの人らしい。大阪では朝日放送の社屋が氏の設計です。(2012年 日経BP社発行)