読書と音楽の愉しみ
読書感想文●廣宮孝信著「国の借金 新常識」を読む
100円のうどんの話の次は1000兆円の借金の話。もう、ついて行かれへんと、読者が一人去り、二人去り・・。あかんがな~。
この手の本には明快に二つのタイプがある。楽観派と悲観派であります。本書は楽観派。国の借金が1000兆円? どんまい、どんまい、それがどないしてんと安心論を述べています。ときどき紹介する三橋貴明氏も楽観派です。しかし、国民の多くは膨大な借金が積み上がり、マスコミに国民一人当たり800万円とか書かれると、憂鬱になってしまう。「800万円も借金した覚えはない!」と思っても何か不安が消えない。
こんな言い方は、マスコミのアホな記者が、日本の財政は深刻だと危機感をあおるために思いついたもの。なのに、無知な国民の一部は真に受けて本気で心配している。外国でこんな表現をしているのを聞いたことがない。スペインの失業率26%のほうがよほど深刻なんですが。
借金1000兆円、一人当たり800万円。しかし、国民の貯金額1500兆円。アメリカやギリシャと違うところはこれです。しかも借金の九割は国内で消化している債権。ヨソの国の危ないところは、外国からの借金の比率が日本よりはるかに大きい。デフォルトの理由は大抵これです。
・・と書いてきて、本書の内容の要約はかなり難しいと気がついた。国家経済、国際経済の話をあんまり端折って書くと、えらいミスをしそうなので止めます。(テーマごとに書いたほうが良いかもと思案中)
日本人は、心情的に借金を悪と考える風潮が強くて、家計でも、貯金は○、借金は×と白黒で判断しがち。その感覚を企業レベルにまで持ち込んでしまったのが、この20年のデフレ経済です。バブル景気崩壊の後遺症もあって、経営者は融資の返済を第一にして、社員の給料をケチり、新規投資を控えて、ひたすら守りの経営に徹してきた。だから、銀行は、本業の融資で金が大余りしてしまい、四苦八苦が続く。なのにまだ庶民はチマチマと貯金に励み、年寄りは年金や退職金をしまいこんで使わない。デフレ、不景気は当然です。
何年か前、三橋氏の本を読んでハタと気づいたことの一つは、私たちは銀行に預金をすると、銀行経営に寄与、貢献していると思ってしまう。少なくとも悪いことしてるなんて思わない。しかし、有り体にいえば、こんなデフレ景気のときに預金するのは、銀行にとってはありがた迷惑なんですね。ほんま。
慇懃無礼企業の代表である銀行は決して迷惑顔なんかしませんが、ま、ぜんぜん嬉しくない。なぜなら、私たちが預金することは、銀行にとっては借金になるから。駄目男が10万円預金する=銀行は駄目男に10万円借金すること。くそジジイに10万円借りるなんて真っ平や、と思っても断れない。その上、借金だから、例えちょびっとでも利息を払わなければならない。十万、二十万の預金にも利息を払わなければならない。本当は預かり手数料、金庫代を要求したいくらいでせう。
ところが、インフレになると話がひっくり返る。ヒャー、駄目男さん、10万円預金してくれはるんですか、うれじ~、スリスリと揉み手する。帰りに名入りタオルをくれたりする。もっとぎょうさん預金してもらうために利率を上げる。そんな時代がありましたねえ。あれから、はや四半世紀。
話が飛躍するけど、国の借金が1000兆円に達するというのに、国債の利率が0,7%そこそこなのをご存じでせうか。こんな低利率、日本だけです。国(正しくは政府)が国債を発行し、銀行が買い受ける。銀行は国から0,7%とかのケチな利息を受け取る。だから私たち小口預金者には、0,01%とかの有るか無きかのような利息しか払えない。当たり前です。(これも極論だから誤解なきよう)
なんで1000兆円もの借金が積み上がったのか。税収が少ないから。税収で予算をまかなえたら借金の必要なしです。収入がないのにサービス(支出)を優先し、無駄遣いもした。これを解決しようと消費税を上げたら、増収どころか、逆効果になった。・・以後、低空飛行が続いて今日に至る。テキストになる本がたくさんあるので、興味ある人は自分で勉強して下さい。
本書の著者、廣宮氏や三橋氏は、マスコミのインチキ経済論に対抗するため、騙されないために、啓蒙が主目的で本を出していますが、逆に国民の不安をあおる内容ばかり書いて、本の売り上げだけをもくろんでる著者、出版社があります。
船井幸雄、大前研一、藤巻健史、朝倉慶・・こんな著者の本を読んで共感する人は、間違いなくB層の人間でせう。不安にあおられ、欲につられて、しょーもない金融詐欺に引っかかるのもこのレベルの人たちです。彼らの主張において大前提にしているのが「日本はダメの国」です。日本は破綻する、崩壊するぞ。ハタンとホーカイの二本立てで日本をけなしてメシのタネにしている。
朝倉慶氏は「2012年 日本経済は大崩壊する」という勇ましい本を書いてるが、2012年はもう過ぎちゃいましたよ、朝倉さん。大ホーカイ、どうなってるんですか。こんな本が売れてるとは思えないが、ネット世論ではしっかりバカ呼ばわりされている。この人をサポートしたのが船井幸雄氏。老いぼれてボケたか。しっかりして下さいよ。(2012年8月 技術評論社発行)